日本画って、名前は聞いたことがあっても
「どんな絵?」「日本画って、つまり浮世絵とかでしょ?」
と首をかしげる方が多いのではないでしょうか。

美大日本画卒・元美術教師の筆者が「日本画ってなに?」をわかりやすく解説します。
特徴を押さえれば、油絵や水彩との違いもスッと見えてくるように。
「なるほど、これが日本画か!」とわかると、初めての制作も楽しいものになるはず。
さっそく、日本画の世界をのぞいてみましょう!
日本画とは「洋画」と区別するため誕生した呼び名
「日本画」は 明治時代 に「洋画」と区別するため生まれた呼び名です。
それまでは「やまと絵」や「琳派」など、流派ごとの呼び方しかありませんでした。
しかし、明治時代に洋画が登場したことで、それまでの日本で描かれていた絵を表す言葉が必要になったのです。
洋画と日本画の違いは当時は明確でしたが、現在はその境界線は曖昧になってしまいました。
その結果、画材の違いで主に判断することが一般的です。
一般的には「日本特有の画材で描かれたもの」を指す
「日本画」は現在、岩絵具や和紙などの日本特有の画材を使用している絵画のことを指します。
しかし「日本人による絵画は全て日本画だ」という主張があった時代もあり、歴史をたどると定義は様々。

専門家でも定義が分かれるので、本当に曖昧なんです。
厳密に説明しようとするとかなり長くなってしまうので、初心者向けの説明としてここでは割愛します。
もはや西洋と日本の絵画の境界線も曖昧なものとなっているので、一般的には「日本特有の画材で描かれたもの」を指すことが多いです。
このブログでは「使用する画材・技法」としての日本画を説明していきます!
ちなみに、浮世絵は木版画なので日本画ではありませんよ。
やまと絵・狩野派・琳派など日本絵画の歴史をざっと整理
では、“日本画”のルーツである日本の絵画とはどんなものか見てみましょう。
かいつまんで少しだけ見てみようと思います。
平安時代に生まれた「やまと絵」
平安時代は中国から伝来した様式に対し、「やまと絵」と呼ばれる絵が成立。
絵巻物の形で、日本の風物や物語が描かれることが盛んになりました。

屋根を書かない「吹抜屋台(ふきぬけやたい)」と呼ばれる方式で、当時の生活様式が垣間見える物が多いです。
水墨画が大成する室町時代
室町時代は中国文化の需要が進み、禅寺を中心として水墨画が発展します。

雪舟などの画僧たちにより、中国の山水技法をベースに日本の感性を取り入れた山水画が多く作られました。
豪華絢爛な障壁画が誕生した安土桃山時代
安土桃山には、戦国大名たちが城を建てて襖や屏風を豪華に飾り立てるため、絵画も豪華絢爛になります。

金箔・銀箔をふんだんに使った豪華絢爛な画面がみられるように。
また、「わびさび」の文化もできたこの時代は、長谷川等伯のような水墨画もあらわれます。
江戸時代には琳派や円山派などの流派が多彩に、デザインが多岐にわたる

庶民にも文化が広まった江戸時代は美術品・工芸品に意匠性(デザイン性)が含まれるように。
狩野派だけでなく、琳派、円山派などの流派も多彩となり、伊藤若冲や曾我蕭白などの奇想天外な画家も活躍しました。
また、メディアが発達したことで浮世絵も誕生し、多くの人に楽しまれる文化となりました。
明治時代になり「日本画」の誕生、近代化がすすむ

明治時代になり「洋画」が出現、西洋の文化が奨励されていき、日本文化が衰退していきます。
そこで、フェノロサと岡倉天心が日本の伝統絵画を再評価したことで「日本画」という言葉が誕生しました。
本体の日本画の良さに加え西洋の絵画技法が取り入れられて、遠近感や絵具の濃淡がより際立つ絵が増えていきます。
日本画の材料と道具9つ
ここでは日本画で使用する主な道具をご紹介します。
筆
日本画用の筆は中心は硬い毛、その周りを水含みの良い柔らかい毛で巻いたものが基本です。
そのなかでも芯の硬い毛がしっかりとあり描写ができる筆や、柔らかい毛が多めで広い面を塗るように描ける筆など様々な種類があります。
刷毛
筆よりも広いところを均一に塗りたいときに、便利な道具です。
絵の具を塗るだけでなく、水張りをするときにも使います。
絵皿
陶器でできたお皿。
小さいものから大きいものまで様々なサイズがあります。
コスパを重視したいなら、100円均一などで売っている白い小皿でもOKです。
和紙
日本画を書く上で欠かせない基底材の1つ。
材料は、麻や楮などが主に使われます。
生の紙と、にじみ止めが施されたドーサ引きの紙と2種類があります。
和紙の他にも絹や板、布に書いたりする場合も。
膠(にかわ)
画面と絵の具を接着する素材。
棒状の三千本膠、粒状の粒膠、キューブ状の鹿膠など様々な形があります。
原料は、動物の皮や骨などから取れるコラーゲン質が主です。
日本では古くから壁画や仏像などの接着剤として、日常的に使用されていました。
絵具
岩絵具や水干絵具などの種類があります。
様々な自然物が材料として日本画の絵具に使用されます。
金や銀などの金属も絵具として使えます。
極論、砂状のものであれば何でも大丈夫なので、自分で土などを取ってきて絵の具にしてしまう強者も。
胡粉
牡蠣やホタテなどの貝殻から作られた白色の絵の具。
これに染料で色をつけたものが水干絵具になります。
顔料の発色をよくするための下地として使用する場合もあり。
日本画の他にも日本人形や能面など、様々な場所で使われています。
墨
煤(すす)と膠と香料を練って作られるもの。
高級な墨は書き味がよいだけでなく、良い香りがします。
実は固形の角は時間が経つことで書き味が良くなっていきます。
新しい墨より、保存状態の良い古い墨のほうがいい場合も。
パネル
紙を貼って使ったり、そのまま書いたりする基底材。
紙をパネルに貼り込んでおくことで、紙が波打って絵の具が乗りづらくなることを防ぐ役割もあります。
日本画の魅力
では、いまでも続く日本画の魅力って何でしょうか?
- 油絵・水彩と比べた違い
- 日本絵画の特徴
から紐解いていきたいと思います!
油絵・水彩とくらべた日本画の違い
日本画と油絵、水彩の違いを以下の表にまとめてみました。
比較項目 | 日本画 | 油絵 | 水彩 |
---|---|---|---|
絵具 | 岩絵具・水干絵具・胡粉 | 油絵具 | 水彩絵具 |
支持体 | 和紙・絹本 | キャンバス | 水彩紙 |
下地処理 | 胡粉・膠で吸い込み調整 | ジェッソで目止め | 処理不要 |
発色 | 粒子が光を散乱、マットで奥行き | 油膜で艶やか、重厚 | 透明感、重ね塗りで発色 |
修正性 | 水で再溶解、乾燥後の削り出しが可能 | 乾燥後は困難 | 水で再溶解しやすい |
保存性 | 素材により安定度が異なる | 黄変リスク | 紫外線に弱い |
特に日本画は岩絵具・水干絵具・胡粉など“素材そのもの”の絵具が魅力といえます。
もともとチューブで完成された絵具として売られている油絵・水彩とは違い、日本画は自分で絵具を作るところから始まります。
自分で調合し、オリジナルの絵具を作る楽しみは日本画の魅力とも言えそうですね。

手間ひまはかかりますが、その分完成した絵は愛着が持てますよ!
空白に趣を感じられる日本独自の美意識

美術界隈では「地と図」という概念は割とよく出てきます。
ず‐と‐じ〔ヅ‐ヂ〕【図と地】
《figure and ground》心理学で、ある物が他の物を背景として全体の中から浮き上がって明瞭に知覚されるとき、前者を図といい、背景に退く物を地という。
引用:コトバンク
日本には「地」である余白を空間として捉える独自の文化があります。
余白に広がりや奥行きを感じさせることで、無限に見る側が創造をかきたてることができるのです。
余白に趣を感じることができるのも日本画の魅力ですね。
日本画でまずチェックしたい代表作家
最初に説明した、いわゆる「日本画の画材を使用して描いている画家」を紹介します。
本当はもっとたくさん紹介したい画家はたくさんいますが、それぞれの時代で有名な方をピックアップしてみました。
長谷川等伯


出典:長谷川等伯「松林図屏風」, Public domain, ウィキメディア・コモンズ経由
安土桃山時代から江戸時代初期の絵師。
長谷川派は狩野派と対抗する位の勢いを持ちました。
伊藤若冲

江戸中期に活躍した画家で、動植物をモチーフにした絵が有名です。
実は若冲が評価されるようになったのは、20世紀後半。
アメリカのコレクターであるジョープライスによって再評価されたのがきっかけです。
横山大観

近代日本画団の巨匠で「朦朧体」と呼ばれる線描を抑えた独特の描法を確立。
今でも続く日本美術院の指導者として近代日本画の発展に努めたことも有名です。
上村松園
美人画を得意とした女性画家
1948年には、女性として初めての文化勲章を受賞している
東山魁夷
昭和を代表する日本画家の1人
風景画はとても人気がある
まとめ
この記事では、日本画の特徴や歴史、油絵・水彩との違いについて解説しました。
ポイントを改めて整理すると、
- 「日本画」は明治時代に西洋の絵画(洋画)と区別するために生まれた名称。
- 現代では主に岩絵具や和紙、膠(にかわ)といった日本特有の画材を使って描かれる絵画を指す。
- 油絵や水彩画と比べると、日本画はマットで落ち着いた発色が特徴的。
- 「地と図」の関係や余白を活かした独自の美意識も、日本画の魅力の一つ。
これらの特徴を押さえると、日本画を観る楽しみが深まり、制作への意欲もきっと高まります。
まずは気になった作品や作家をチェックして、日本画の奥深い世界を楽しんでみてくださいね!