「日本画を描いてみたいけれど、どんな画材が必要?どう使えばいいの?」
岩絵具の美しい質感で描かれた日本画を自分でも描けたら素敵ですよね。
本記事では、日本画を始める初心者の方に向けて、道具の使い方を美大日本画卒・元美術教師が丁寧に解説していきます。
各画材の使い方を日本画制作の流れに沿って説明するので、一連の流れがグッとイメージしやすくなりますよ。
- 膠(にかわ)を溶かす
- 礬水(ドーサ)を引く
- 紙を水張りする
- 絵具を溶く
- 描いたら筆を洗う、膠抜きをする
すべての工程をやろうと思うと2〜 3日かかりますが、手間をかけて丁寧に作り上げる日本画は愛着がこもってかけがえのない作品が出来上がります。

めっちゃ時間かかるじゃん!と思った人は、下地の工程を省いて作る方法もあるのでご安心ください。
皆さんの記念すべき日本画の第一作目を一緒に作っていきましょう!
- 日本画制作の5ステップを知ることができる
- 日本画制作に必須の道具がわかる
- 失敗しない膠・ドーサ濃度のコツがわかる
日本画材ってどんなもの?初心者のための基本セット
上記の5ステップを進めていくために必要な基本セットをご紹介します
絵具や筆の他にも、膠や絵皿などが必要になってきますよ。
リストにしてみたので見てみてくださいね。
- 膠(にかわ)
- 和紙
- 岩絵具
- 水干絵具
- 胡粉
- 墨
- 筆
- 絵皿
- 礬水(ドーサ)
- パネル

ドーサやパネルは必要に応じて準備しましょう!
それぞれの使い方を以下で説明していきます。
すべて揃えなくても大丈夫!初心者おすすめのスターターセット
ちなみにスターターセットを使えば、日本画に必要なものが全て揃っています
自分でひとつひとつ揃える必要がないので手間がかからない上に、ガイドがついててすぐに本格的な日本画ができちゃいます。
ステップ1:膠を溶かす
膠には棒状の三千本膠・粒膠・液体膠と様々な形がありますが、初心者は液体の膠を使うと便利ですよ。
なぜなら、固形の膠は防腐剤が入っていないものも多く、作ってから2〜3日で腐ってしまう場合が多いため。
液体の膠は防腐剤がもともと入っているので長期間の保存に耐えることができます。
最初の作品は膠を大量に使うこともないので、液状の膠を購入しておくと、後々無駄にしなくてよいのでオススメですよ。
膠の使い方
固形の膠はまず水でふやかしてから湯煎をし、液状にして使います。
使用したら冷蔵庫に入れて保存します。2〜3日で使い切るのが目安です。
膠を捨てる場合は、ビニール袋などに入れ、可燃ゴミへ。
排水口が詰まってしまうので、決して排水溝に流さないようにしましょう!
膠の濃度は10%が目安。薄すぎても濃すぎてもだめ!
膠は10%の濃度が一般的な方法ですが、紙や作風によって膠の濃度が変わってしまいます。
膠の濃度は約10%(膠10 g/水100 mL)
薄すぎると絵具が定着しないし、濃すぎると絵具が渇いたときにテカってしまったり、剥落の原因になってしまう場合も。
プロの作家さんも人それぞれ「自分の最適な膠の濃度」というものがあります。
使いながら最適な濃さを見つけていくといいですよ。
最初は濃いめ、仕上がりに向けて薄めの膠を使用するときれいに仕上がります。
ステップ2:ドーサをひく
ドーサ(礬水)とは、膠とミョウバンを溶かした水のことをいいます。
- 絵具や墨の滲みを防ぐ
- 絵具を定着させる
- 紙の劣化を防ぐ
ドーサの引かれていない和紙や絹を使うと、墨が滲んだり、絵具が定着せずに落ちてしまいます。
この紙の滲みを防ぐために、絵を描く下準備としてまずドーサを引く必要があります。

画材屋さんには、もともとドーサが引かれた紙も販売されていますよ
また、ある程度絵を描き進めた上でドーサを引くと、それまで乗せた絵具を紙に定着させることができます。
絵具が落ちずに済むので、その上から絵具をさらに重ねて描き込むことができるようになりますよ。
ドーサの作り方
ドーサについても、薄すぎるとにじみを防いでくれないし、反対に濃すぎると絵具を弾いて絵具がつかないことがあります。
また、季節や塗る素材によっても、濃さを変えたりするので正確な分量はありませんが
・水1リットルあたり膠10〜30g(約1〜3%)
・生明礬5〜10g(約0.5%〜1%)
を目安にするといいと思います。

人によっても分量が大きく変わってくるので、最適な分量を探してみてくださいね
ちなみに、こちらも市販のものがあるので、濃さを心配することなく使うことができますよ
ドーサの引き方
ドーサは塗るではなく「引く」という意識でやってみましょう。
刷毛をそっと紙に当てて、力を入れずに、すーっと撫でるように動かしていきます。
最初は刷毛が水分を多く含んでいるので、水が溜まらないように素早くだんだんスピードを緩めてゆっくりと紙に染み込ませるようにするのがポイントです。
なるべく均等にドーサを引くことができます。
ドーサを引くのは晴れた日にやるのがオススメです。雨だと一向に乾きません。
ステップ3:水張りをする
水張りは紙が波打つのを防ぎ、ピンと貼った状態で制作をするために必要です。

やるとやらないでは段違いで描きやすさが違います!
- 木製パネル
- 刷毛
- ヤマト糊
- 和紙
水張りの作業は以下の順番で行っていきます。
まず木製パネルにのりが染み込んでしまうのを防ぐため、あらかじめパネルの側面にのりを塗っておきます。
のりを乾かすため前日〜数時間前に行っておくといいですよ。
和紙の裏面に水を塗っていきます。
大きいパネルだと表面から塗る方法もありますが、基本的には裏側に水を塗っていきます。
ちなみに、和紙は丸めて売られており、内側が表面、外側が裏面です。
和紙が水を吸った際に均等に伸びるように中心→端に向かって放射状にするイメージで塗っていきます。
和紙が吸水しているあいだに、捨てのりをした部分に重ねてのりを塗ります。
薄くなりすぎないよう注意。
和紙がしっとりして全体的に水を吸ったら、ひっくり返してパネルの上に乗せます。
側面の長い辺、短い辺の順に紙を貼っていきます。
中心から端に向かってタオルや素手でやさしくしわを伸ばしながら貼り込んでいくのがポイント。
強い力で行うと紙が傷んで毛羽立ったり、描き進めた際に紙が破れる場合があるので注意してください。
水分が均等に乾くため、パネルを寝かせて乾かします。
紙から水分が抜けてピンと画面上に張った状態になったら完成です。
失敗しない水張りのコツ
乾いたときに角の部分にシワが寄ってしまう「つる」という状態になってしまう場合があります。
これは、水張りをしている間に端の処理が甘いとなってしまいます。
端はシワのないようにしっかりと伸ばして貼り込んでおくと乾いてもピンと張ってくれます。
ここまでの工程を省いた「麻紙ボード」がおすすめ
「もう今までの工程めちゃくちゃめんどいじゃん!」って思った方は、ここまでの工程を全て行われている「麻紙ボード」というものがあります。
初心者の方でも色紙のように日本画を早速描きはじめることができるので、こちらを使うのがオススメですよ。
また、パネルよりも手軽なボード状になっているので扱いも簡単です。
ステップ4:絵具を溶く
絵具には主に岩絵具と水干絵具があり、それぞれに特長があります。
- 岩絵具は物質感が強く表面の装飾をすることに向いている
- 水干絵具は混色ができ広い面を塗る事に向いている
下地に水干絵具を使ってから岩絵具で書き込んでいく人がほとんどです。
水干絵具の溶き方
水干絵具は空摺りをして細かく砕き、膠で溶きます。
空摺り、膠で練る段階で粒子をなるべく残さないようにしっかり練り込むのが大切です。
乳鉢、あるいはいらないチラシなどを使って水干絵具を細かく砕きます。
ここでダマが残らないようしっかりと砕くのがポイント。
絵皿に絵具をのせて、膠を少しずつ加えて練ります。
一度にたくさんの膠と混ぜるとうまく練ることができないので、少しずつ膠を加えます。
絵皿に擦り付けるように練るとうまくいきます。
しっかりと絵具と膠を練り合わせたら水を加えて適度な薄さに調整します。
水を少しずつ加えながら、練った絵具を指で溶かしていくと調整しやすいですよ。
岩絵具の溶き方
岩絵具には3番から13番、白という数字があり、番号が大きくなるほど粒子が細かくなります。
下地や描き始めは粒子の細かい絵具を使用し、書き進めるにつれて、粗い絵具を使用していくと定着が良いです。
また、金泥や銀泥などの金属などもこの要領で同じように溶くことができますよ。
絵皿に絵具をのせて、膠を少しずつ加えて練ります。
一度にたくさんの膠と混ぜるとうまく練ることができないので、少しずつ膠を加えます。
絵皿に擦り付けるように練るとうまくいきます。
しっかりと絵具と膠を練り合わせたら水を加えて適度な薄さに調整します。
水を少しずつ加えながら、練った絵具を指で溶かしていくと調整しやすいですよ。
ステップ5:筆を洗う、膠抜きをする
絵を描いたら最後は、筆や絵具を手入れして、道具を長く使えるようにしておくことも大切です
特に岩絵具は「膠抜き」をすると、再度絵具として使うことができるのでしっかり覚えておきましょう。
筆の保存の仕方
筆はぬるま湯でしっかりと膠分を残さないように洗います。
洗った後は立てて保存するのは良くない保存方法。
つるすのが1番理想的ですが、なかなかそうもいかないという場合もあると思います。
その場合はタオルなどで十分に水気を吸わせて、寝かせて乾かすといいと思います。
筆の軸の中に水分を残さないようにしないとカビの原因になるので、なるべく水を抜いて乾燥させることを意識しましょう。
膠抜きの方法
岩絵具は「膠抜き」をすることができます。
絵具に熱湯をかけて膠のタンパク質を分解させて、膠が着いていない状態に戻すことをいいます。
絵皿に熱湯を入れて何度かかき混ぜて、上澄みを捨てる。これを2〜3回ほど繰り返します。
かき混ぜる時はやけどに注意。使い古した筆などを使うのがオススメですよ。
まとめ
いかがでしたか?日本画の制作には、独特の道具や手順がたくさんありますが、一つひとつの工程に意味があり、それが作品に深みを与えてくれます。
膠を溶かす、ドーサを引く、水張りをする……と聞くと難しそうに思えるかもしれませんが、基本を押さえて丁寧に取り組めば、きっとあなたらしい素敵な一枚が生まれるはずです。
最初はスターターセットや麻紙ボードを使って、手軽に始めてみるのもおすすめですよ。

「描いてみたい!」と思った今がチャンスです。道具を手に取って、まずは一歩を踏み出してみましょう♪
このブログでは、初心者さん向けに日本画の描き方や道具の選び方をわかりやすく発信しています。
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